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2008年9月22日

「中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす」(遠藤誉・著、日経BP社)

マンガ・アニメは中国語で「動漫」という。日本のマンガ・アニメは中国の若い世代に深く受容されている。同時に、反日感情も根深い。本書は、中国の若い世代が日本に対して抱くダブル・スタンダードの感情を、数多くのインタビュー、証言、ネットへの書き込みを元に生々しく描き出す。

全7章のうち、1章から4章までは、日本のマンガ・アニメが中国の若者の間で高い人気を得て、確固たる文化となっていることを伝える。日本のマンガ・アニメの素晴らしさを訴える証言の数々は面映ゆいほどだ。日本のマンガ・アニメが中国で広まった大きな要因が海賊版の普及にあること、中国政府が遅ればせながら自国製マンガ・アニメを振興しようとして不首尾に終わっていることなど、マンガ・アニメが流行した背景や影響への目配りも行き届いている。また、著者は日本のマンガ・アニメは中国の若い世代に日本の精神文化を伝え、民主主義の教科書として機能してきたと分析している。

著者が、さる政府高官から聞き取った発言が興味深い。アメリカには確固たる国家戦略があるので、アメリカ製のアニメには民主主義・人権主義・平等といった思想性と目的性が込められている。それに対して、日本のアニメにはそうした思想性と目的性がないので危機感は感じないという。マンガ・アニメの人気が高まることは民主化を生じるのではないかという著者の疑問に対しては、中国も長いスパンではかならず民主化すると答えている。そのとき選挙で選ばれるのは共産党員とは限らない、とまで。

4章までは日経BPのウェブサイトに連載された記事が元になっている。5章以降は、反日感情がテーマであり、本書の真価はここにある。

結論の一つは、中国の若者たちは、メインカルチャーとサブカルチャーのダブルスタンダードをもっているということだ。

そして、中国新人類の対日感情のダブルスタンダードとは、つまるところ、自ら選びとった「日本動漫大好き!」という民主主義的なサブカルチャー(次文化)に対する愛と、国家から施された、「反日的感情」を醸成する結果を招く愛国主義教育という社会主義的なメインカルチャー(主文化)に対する「刷り込み」とが、彼らの心の中に同時存在している、ということなのである。(p.432)

ただし、反日感情が爆発して大規模な抗議行動を引き起こすことには、中国政府は強く警戒しているという。若者たちから自発的に起きる大規模なデモが、民主化を要求する反体制的行動から革命に結びつくことを恐れるのである。2005年の大規模な反日デモは、サンフランシスコで中国政府に対して民主化促進を訴えている台湾系華僑華人を含む人権保護団体が発信源だった。『巷でささやかれていた「中国政府の陰謀」どころか、「中国政府の敵」が発した「シグナル」が、インターネットを介して中国大陸の若者たちを刺激し、「反日」デモの火元となったのである。』(p.433)

また、反日感情が剥き出しになる理由にも分析が及んでいる。それを著者は「大地のトラウマ」と名づけている。

非革命的である特定の人を選び出して「標的」とし、その人をいっせいに攻撃する。「声が大きい者が、より革命的」で、声の小さな者は、「非革命的である」として次の「標的」にされる。《中略》だから誰かが「反革命だ!売国奴だ!」と叫び始めたら、自分は「叫ぶ側」につかなければならない。しかもできるだけ「大声で」叫ばなければならない。そうしなければ、いつ自分が逆に「反革命」あるいは「売国奴」のレッテルを貼られるか、わからないからだ。そのレッテルは中国においては「社会的死刑」を意味する。(p.436)

さらに「大地のトラウマ」は為政者側にもある。《中略》こうした一連の構造を理解しておくだけで、日本人の中国への理解、そして中国人への理解は格段に深まるはずである。(p.438)

著者は1941年に長春(当時の新京)に生まれ、1953年まで中国で過ごした女性。帰国後、理論物理学の研究者となり、中国人留学生の窓口を務め、中国の大学で教鞭を執るなど、中国に深く関わり続けている。中国に対する「愛」と「愛に反するもう一つの感情」を同時に抱いているという。日本敗戦の翌年から本格化した国共内戦と、その後誕生した中華人民共和国の下で生き延びたことが、決定的なトラウマを残したとも。国共内戦では家族を餓死で失い、死体の山の上で野宿を余儀なくされ、恐怖のあまり記憶喪失となった。長春が共産党軍によって食糧封鎖され市民が数十万人餓死した事件=自分史は、「チャーズ 出口なき大地」という書物に描かれている。心を打つ書物ながら、現在は絶版である。

投稿者 kmatsu : 2008年9月22日 21:22

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