2008年6月30日
「世界でもっとも美しい10の科学実験」(ロバート・P・クリース著、日経BP社)
世界でもっとも「重要な」実験にあらず。もっとも「美しい」実験である。
紹介されているのは10の実験。
- 世界を測る
−エラストテネスによる地球の外周の長さの測定 - 球を落とす
−斜塔の伝説 - アルファ実験
−ガリレオと斜面 - 決定実験
−ニュートンによるプリズムを使った太陽光の分解 - 地球の重さを量る
−キャベンディッシュの切り詰めた実験 - 光という波
−ヤングの明快なアナロジー - 地球の自転を見る
−フーコーの崇高な振り子 - 電子を見る
−ミリカンの油滴実験 - わかりはじめることの美しさ
−ラザフォードによる原子核の発見 - 唯一の謎
−一個の電子の量子干渉
著者が掲げる美しい科学実験の条件は、深さ(基本的であること)、経済性(効率的であること)、決定的であること。
そして、著者は言う。
私は本書の序文で、実験が美しいという考え方に対して二つの疑問を提起した。まず第一に、「もしも実験が美しいと言えるなら、それは実験にとって何を意味するのだろうか?」そして第二に、「もしも実験に美があるなら、それは美にとって何を意味するのだろうか?」という疑問だ。
第一の疑問に対してはこう答えよう。実験の美しさとは何であるかが理解できれば、実験には人の心を揺さぶる力があることがわかるだろう。(p.300)
...
第二の疑問に対してはこう答えよう。科学実験の美しさに気づけば、より古い伝統をもつ美の意味を蘇らせるのに役立つと。(p.302)
著者は哲学者である。美の議論は正直に言ってとっつきにくい。だが、科学実験の美しさを伝える記述は確かな科学精神に裏打ちされていて、それ自体が美しいと言える領域に達している。
投稿者 kmatsu : 21:25 | コメント (0) | トラックバック
2008年6月23日
「甘粕正彦 乱心の曠野」(佐野眞一著、新潮社)
甘粕正彦の評伝である。(甘粕正彦の人物についてはこちら)
甘粕については、1975年に角田房子が「甘粕大尉」というすぐれた評伝を上梓している。30数年後に著された本書は、「甘粕大尉」がカバーしていない資料を数多く参照している。その極めつけは、大杉栄・伊藤野枝・橘宗一の検屍報告書。甘粕が他人の罪を被ったという従来からの定説を裏付けるものだ。
さらに本書を特徴づけるのは、関係者への徹底的な聞き取りである。能う限りの関係者すべてにアプローチしたとおぼしい。大杉事件で甘粕と共に有罪判決を受けた下士官たちまで追っているのには驚いた。
大杉事件から80余年、甘粕の死からも60余年。直接の関係者はもちろん、その子供の代もそろそろ物故する頃合いである。証言には記憶違いや、聞き伝えの誤りや、こうあって欲しいという無意識の改変が加わっている。複数の証言の食い違いをたどっていると、事実を再現することよりも、物語が生まれる過程の方を面白く思ってしまう。
そして、甘粕正彦という人物が語り継がれるに足る人物だったことは間違いない。
じつは、わたしも甘粕の関係者に会ったことがある。20数年前、満州映画協会を大学の卒業論文のテーマに選んだからだ。甘粕を冷ややかに語った左翼崩れの映画屋(カツドウ屋)。「甘粕先生は立派な人だった」と語った甘粕の最後の秘書。どちらの語りも、甘粕の人となりのかけらくらいは伝えていたのだろう。甘粕の記憶を40年間抱え続けた人にとっての真実のかけらを。
人の記憶は、生々しい体験から、言葉によって記述される物語に変わることによって定着するという。ましてや、言葉にされなければ、個人の記憶を越えてできごとが語り継がれることはない。歴史はヒストリー、物語はストーリー。フランス語ならどちらもイストワールである
投稿者 kmatsu : 21:08 | コメント (0) | トラックバック
2008年6月 9日
VMware Fusionで御難
Mac上のVMware Fusionで仮想マシン(Windows XP)が起動しなくなった。
症状
- 仮想マシンの起動中に「仮想マシンをリストア中」というメッセージが現れ(これは通常の動作)、プログレスバーの30%ほどのところから進まなくなる。
- VMware Fusionを終了することもできず、「アプリケーションの強制終了」で終了。
- それからVMware Fusionを再起動すると、プログレスバーも現れず。
- MacOSを再起動すると最初と同じ現象。
解決方法
VMware Fusionで新しい仮想マシンを作成して起動。「仮想ディスクを指定せよ」とのメッセージが出たら、仮想マシンパッケージ内のBaseDrive.vmdkというファイルを指定する。
その他
仮想マシンをバックアップしておこうと考えていた矢先のできごとだった。仮想マシンのサイズは15GBほど。気軽にバックアップできるサイズではない。もちろん、回復したところでバックアップを完遂。
VMware Fusionの仮想マシンファイルは、アプリケーションの.appと同様にパッケージとなっており、仮想マシンの設定ファイル(.vmx)、仮想記憶ファイル?(vmem)、それに複数に分割された仮想ドライブファイル(.vmdk)などが入っている。.lckというサフィックのついたフォルダーは、ロックファイルか。それ以上、ハックする元気なし。
ことのついでにUbuntuデスクトップの仮想マシンをダウンロードして試してみる。とくに用はなし。
投稿者 kmatsu : 20:54 | コメント (0) | トラックバック
2008年6月 3日
「Googleを支える技術 巨大システムの内側の世界」(西田圭介著・技術評論社)
Googleのプラットフォームは、低価格のコンポーネントを大量に用いて高速で信頼性の高いシステムを構築していることで有名だ。しかし、その実態は積極的には公表されていない。秘密主義は、Googleのもう一つの顔である。
本書の著者はGoogleが公開している技術論文を読み解き、Googleの社内システムを緻密に推測する。対象は、大規模検索、分散ストレージ、分散データ処理、データセンター運用コスト、それに開発体制。
ソフトウェア技術で興味深いのは、分散ストレージ(GFS, Bigtable, Chubby)と分散データ処理(MapReduce, Sawzall)である。いずれも、検索を大量に高速に頑丈に実行するために構築されたシステムだ。そして、その目的を遂行するために強力なスケーラビリティと耐障害性を実現している。
情報技術を使ってビジネスを実現し、遂行する。必要ならアプリケーションだけでなく、プラットフォームも自製する。これは、Googleだけでなく、ほかの情報技術インテンシウな企業も同じだ。プララットフォームまで自製するコストを投資と見なせるのは、時間を短縮することがビジネスの成否に決定的だからだ。
20年以上前、日本の銀行はオンラインシステムを再構築するために、IBMに専用のトランザクションモニタ(IMS)を開発させた。システムの構築にも長い年月がかかった。今から見ればビジネスを実現する速度が牧歌的に見える。
情報技術をビジネスの核心に据える企業は情報システムを自製する。ときにはプラットフォームまで自製する。投資も惜しまない。そうでない企業が情報システムを外注する。外注経費は投資ではなく、削減すべきコストである。したがって、受託してシステムを開発するいわゆるSIerという業態は、つねにコスト削減圧力にさらされることになる。
SIerという業態は、基本的に発注者からオーダーされたシステムを構築する。そこで新しい技術が創造されることはほとんどない。ビジネス遂行のために新しい技術が創られるGoogleとはじつに対照的だ。もちろん、新しい技術を創らなくてもビジネスは成立するのだろう。
さて、本書で紹介された分散ストレージや分散処理は、Googleのコアビジネスたる検索を支えるシステムである。Googleは、検索以外のアプリケーションを増やすことにも努めており、そうしたアプリケーションを大量に頑丈に実行するプラットフォームも構築しているはずだ。つぎの関心事はここである。
なお、本書はソフトウェア技術だけでなく、データセンターの設備・電力にまで記述が及んでいる。著者はソフトウェアだけでなく、理科全般の素養も備えており、記述は的確だ。
