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2008年2月26日

「帝国の条件」(橋本 努 著、弘文堂)

「帝国の条件 ......自由を育む秩序の原理」(橋本 努 著、弘文堂)の「帝国」は、ネグリ/ハートの著作「帝国」のそれである。

本書は、まずテロ事件前に書かれた「帝国」と様相が異なってきた現在の帝国状況を思想的に分析し、そこから「善き帝国秩序(<帝国>)にふさわしい思想理念を紡ぎだしていく。

「超保守主義」、「全能人間」、そして「自生化主義」。これが本書で論じられる新たな思想理念である。これらの理念はあまりにも唐突で、グロテスクであるようにみえるかもしれない。しかし私は新たな思想理念の提起を通じて、最終的には善き世界の秩序構想へ向けて、具体的かつ魅力的な政策案を導きたいと考えている。新たな思想理念がなければ、数多にある可能的世界のなかから、理想の世界像を紡ぎだすことはできないであろう。(p.6)

そして、この思想理念に基づいた具体的施策として「トービン税」(為替取引税)と「自生化主義の正義による理想の関税構想」が論じられる。

総じてネグリ/ハートの「帝国」より論旨は腑に落ちる。とくに状況分析は面白い。ところが、著者の提示する具体的な施策には現実感や実効性が感じられない。あとがきで著者がいう「若い読者」と同じように「50年の構想」をつかみ切れないのだろう。残念ながら若い読者ではないので50年先の未来を実際に見ることもできないようだ。

なお、正義の概念そのものよりも、望ましい制度を企てるための政治技術的な可能性を論じるべきだ、という記述のあとに妙に記憶に残る一節があった。

性善説的な発想と覚めた現実認識のあいだに架橋しうる構想を企てる必要がある。政治理論家はアポローンの神を信じ、現実の政治家はディオニソスと結託するというのは、望ましい役割分担ではない。むしろ理論にディオニソスの意義をもたせ、現実のなかにアポローンの神を降り立たせることが、自生化主義にふさわしい企てであるように思われる。(p.438)

理論にディオニソスを、現実にアポロンを。これはいい。

投稿者 kmatsu : 20:56 | コメント (0) | トラックバック