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2006年1月21日

本が崩れる

草森紳一の「随筆 本が崩れる」(文春新書)は、偏屈なジジイの好エッセイである。

タイトルの「本が崩れる」は、出版業界が衰退しているだの、好著が減っただの、装丁の質が落ちただのといった気の抜けたぼやきではなく、きわめて散文的な事実である。文字通り、積み上げた書物の山が崩れ落ちるのだ。

著者の住まいは、本であふれている。床に平積みした本の山が、最低限度の生活空間や仕事空間を除いて家中に充満している。本の山はときどき崩れ落ちる。著者の不注意で崩すこともあれば、自然に崩れることもある。ひとたび崩れ出すと、一つの山だけでなく他の山も連鎖して、ときには部屋中の本が崩れ落ちる。

こうなると、本と生きる生活は命がけである。枕元の本の山が著者を襲うこともあれば、風呂場の出入り口が塞って閉じこめられることもある。

読書家や愛書家ではこうはならない。著者はもの書きである。しかも、著者の執筆スタイルは、取材ではなく本をベースにする。自分の本を書くために、他人の本を必要とする。自分の本の内容を充実させようとする情熱が、家中を他人の本で充満させることになってしまう。生きるために本を集めているはずなのに、本のために生きているがごとき有様である。もちろん、著者は、これを嘆きもしなければ、誇りもしない。そこがいい。

草森紳一のほかの著作を読んだことはない。そういえば、「ナチスプロパガンダ 絶対の宣伝」という本の新聞広告を切り抜いて取っておいたことがある。30年近く前の頃のことである。

本書は、このような崩れ落ちる本の山との格闘から、少年の頃の野球や、喫煙習慣に話題が及ぶ。

いずれも、偏屈でありながら、飄々とした風情が好ましい。

投稿者 kmatsu : 2006年1月21日 21:34

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