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2003年12月23日

佐和九郎「現像の實際」

佐和九郎の「現像の實際」(アルス、1932年刊) という書物を近所の古本屋で購入した。

巻頭の自序が熱い。

「折角の労苦と、貴重なる時間を費やした撮影の結果は、その現像の適否により、或は酬ひられ、或は悲しむべき運命に陥ることは、公知の事実。随って、乾板フィルムの現像は、今日に至るまで、容易に極意をつかめない、甚だ難しい処理と看做されて居りました。

しかし、現像は、果たして困難なる処理であるか?
否! 否! 断じて否である。」(原文は正字)

著者の立場は終始一貫合理的である。乾板フィルム現像の目標は濃度を1対100程度の範囲に収めることであり、それは適切な露出を心がけていれば難しくないと主張する。そのため、フィルム膜面の銀塩粒子の顕微鏡写真やフィルムの濃度曲線などを援用するだけでなく、膨大な現像液処方データとその実施結果を掲載する。じつに700ページを越える大著である。

著者の佐和九郎なる人物に興味が湧く。自序の末尾には「黒澤研究所 佐和九郎」と記されている。いかにも「黒澤」をもじったペンネームくさい。また、奥付の検印には「黒澤志澄」なる印影が認められる。ウェブでざっと調べてみた。

この人物は、1935年から1950年代にかけて写真技術に関するさまざまな書物を著していた。ある記事には「酒井修一氏によれば、著者は本名黒沢志澄といい、銀座でタイプライター等を販売していたクロサワのオーナーであった。」とある。(http://www1.odn.ne.jp/~cdq67980/refe02.2.html) どうやら社長の道楽だったのだな、と推察できる。「銀座 クロサワ」で検索してみると、この会社はいまだに存続しているらしい。(http://www.kurosw.co.jp/profile/history.html)。なんだか嬉しくなる。

なお、銀塩モノクロの現像処理は基本的に70年前も今も大差なく、写真分野における光学技術と化学技術はこの時点で成熟していたことが実感される。とはいえ、ロールフィルムを両手にもって平皿(バット)の中の現像液に浸す方法が一般的だったなど、面白い事実も確認できた。もちろん、著者は「排斥すべき方法」と断じている。

投稿者 kmatsu : 2003年12月23日 22:55

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